marriage

結婚を超えて:東アジアにおける未婚女性の人生選択と制度的再考

最後更新日期:2025年07月25日

東アジア社会において、結婚は長らく人生における基本的な通過儀礼とみなされてきた。未婚のままでいる人々は、とりわけ女性の場合、「未熟」や「無責任」といった道徳的評価の対象となりがちである。現代において、女性たちは教育や経済活動の面でますます自立を果たしているが、結婚制度や家父長的文化は、家事労働、出産、社会規範に関する期待を通じて、依然として見えにくい圧力をかけ続けている。

近年では、未婚や晩婚が一般的になりつつあり、単身者の人口も顕著に増加している。しかしながら、多くの社会制度や文化的な語りは、今なお結婚を帰属意識や安心感の主要な源と見なしている。結婚がもはや安定や保護を保証するものではなくなった現代において、女性たちは共住ネットワークや血縁を超えた人間関係といった新たな支えの形、さらには「家族」という概念自体の再構築を模索し始めている。

本研究では、まず単身人口の動向を分析し、東アジアにおける結婚観が女性にどのような困難をもたらしているのかを検討する。最終的には、従来の契約に基づく関係性ではなく、「関係性に基づくアイデンティティ」を中心とする、新たな「家族」のあり方を構想することで、女性がより自由かつ柔軟に帰属感を得られる可能性を提示する。

未婚人口の増加:日本およびアジア各国の動向

各国の統計データによれば、1990年から2020年にかけて、東アジアおよび東南アジアにおいて未婚人口が顕著に増加している。日本、韓国、シンガポールといった国々では、1990年には全世帯の約10%であった単身世帯の割合が、2020年までに20~30%へと上昇した。

特に日本では、単身世帯が全世帯の約30%を占めており、アジア太平洋地域において最も高い水準の一つである。この傾向は今後も継続すると予測されている。ある調査によれば、2020年時点で日本の全世帯数(約5570万世帯)のうち、単身世帯は約2115万世帯を占め、全体の38%に達している(人口問題研究所, 2023)。さらに、東京圏をはじめとする大都市圏では、その割合はさらに高く、札幌や大阪といった都市においては、単身世帯比率が45%に迫っている。

未婚を選択する動機を探ると、そこには明確なジェンダー差が存在する。「適切な相手に出会っていない」という理由は男女共通して多く挙げられるが、それ以外の要因には顕著な違いが見られる。男性の場合は、結婚に必要な経済的余裕がないことを懸念する声が多い一方で、女性の場合は、結婚後に想定される家事や育児の負担に対する不安を理由に挙げる傾向が強い。

このようなジェンダー差は、より深層的な構造的問題を示唆している。すなわち、東アジア社会における結婚観そのものが、女性たちに結婚制度そのものを忌避させる要因となっている可能性があるのである。本節では、こうした社会的期待や家父長的な規範が、女性の人生選択にどのような影響を及ぼしているのかを批判的に検討するための出発点を提示する。

螢幕擷取畫面 2025 07 06 114048

東洋的伝統的結婚観の文化的基盤

東アジア社会は長年にわたり、結婚を人生における不可欠かつ当然の段階とみなす父系的親族制度(父系制)を中心に構築されてきた。結婚を通じて、外部の個人が正式に家族単位に取り込まれ、最も強力な「血縁に基づく社会関係資本」へのアクセスが可能になるのである。

たとえば日本においては、「家」制度が明治民法によって制度化され、理想化された家族モデルに法的な基盤が与えられた。このモデルは、以下のような特徴を持つ:(1) 恋愛によって結ばれた異性愛のカップル、(2) 一夫一妻制、(3) 夫婦と未婚の子どもからなる核家族、(4) 男性が外で稼ぎ、女性が専業主婦として家庭を担うという役割分担である。

この理想像は単なる記述的モデルではなく、規範的な意味を持っている。つまり、「あるべき家族像」として性別役割分担を前提とし、家父長的価値観を家族の定義そのものに組み込んでいるのである。男性は外で働くことが期待され、女性は家庭内の労働を担うことで、「理想的家族構造」はミクロレベルの家父長制の再現装置となっている。

歴史的に見れば、東アジアの結婚規範は、儒教的な価値観に深く影響されてきた。そこでは、女性が「良妻賢母」としての役割を果たすことが美徳とされてきたのである。現代社会においては、結婚や出産を機に退職する女性の割合は大きく減少し、女性の経済的自立も目覚ましく進んでいる。しかし、社会的期待としては依然として家事労働や介護の負担が女性に偏って課されている。

資本主義経済において、女性が担う家事労働は市場価値から切り離され、「無償労働」として可視化されにくい構造になっている。多くの女性は、日中の有償労働を終えた後、自宅で「第二のシフト」として家事を引き受けている。研究によれば、東アジアにおける既婚女性は、男性よりも1日あたり平均1〜3時間多く無償の家庭内労働を行っていることが示されている。

さらに、女性が「出産可能な存在」として捉えられることは、結婚市場での価値に影響するだけでなく、職場における差別の要因にもなっている。雇用主は、出産適齢期の女性は早晩職場を離れると想定し、採用や昇進においてバイアスをかける傾向がある。また、公的な保育や高齢者ケアの制度が十分でないために、キャリア形成と家庭責任の板挟みに苦しむ女性も少なくない。

女性の経済参加や雇用が進んだにもかかわらず、男女間の賃金格差は依然として大きい。たとえば韓国では、女性の平均賃金は男性の約3分の2、日本では約4分の3にとどまっている。こうした構造的障壁や経済的不均衡が、女性たちに結婚や出産を「過剰な機会費用」と捉えさせる要因となっている。

このような変化を裏付ける研究として、心理学者らが実施した6,000人以上の未婚者に対する調査がある。その結果、女性は恋愛関係以外の人間関係において豊かな社会的支援ネットワークを持つ傾向があり、恋愛関係においては家庭内労働の負担を過剰に担い、性的満足度も低く評価される傾向が見られた。女性の収入が男性に近づくにつれて、結婚による経済的メリットは薄れ、むしろシングルライフに満足し、自覚的に独身を選ぶ人が増えている。

このように、家父長的な規範、性別役割への期待、そして経済構造が複雑に絡み合うなかで、多くの東アジアの女性たちは「家族」という概念そのものを見直し、従来の結婚という枠組みを超えた新たな関係性のあり方を模索し始めているのである。

移ろう安全感から「アイデンティティに基づく家族」への可能性へ

東アジアの文化において、結婚は人生における自然かつ避けがたい段階と見なされてきた。この枠組みにおいて、結婚は「正常な選択」とされ、未婚のままの人は異常、あるいは問題を抱えた存在として位置づけられることが多い。自ら進んで独身でいることを選んだ人でさえ、「仕事が忙しい」や「まだ理想の相手に出会っていない」など、社会的に容認されやすい理由を用いて説明することを求められ、「結婚しないという選択をした」と率直に語るのは難しい。このような微細な社会的圧力は、心理学者ベラ・デパウロによって「シングリズム(Singlism)」と名付けられている。

独身であることへのスティグマ(社会的烙印)もまた、ジェンダーによって大きく異なる。独身女性は、伝統的な役割を拒否する存在として描かれることが多く、結婚しないことが「親不孝」や「無責任」とされることすらある。一方、独身男性は「まだ準備が整っていないだけ」と捉えられ、性格や人生観の問題として非難されることは少ない。

幼少期から女性は、構造的に不利な立場に置かれる男性中心社会において、結婚こそが一種の「保護」や「安全保障」として機能するという暗黙のメッセージを受け取っている。現代においても、経済的に自立している30代の女性の多くが、「このまま未婚でいると孤独になるのではないか」「老後に不安を感じるのではないか」といった心配を抱いている。結婚は、病気、老い、人生の転機といった局面で支え合う生涯契約のように理想化されており、法律や制度の後ろ盾があることで、友情や職場の人間関係よりも安定的だと感じられることが多い。

しかし一方で、多くの女性にとって、結婚がもたらす「犠牲」――時間、空間、自我の喪失――こそが結婚を躊躇させる要因でもある。ここには「安心を求める気持ち」と「自己決定を失う恐れ」との板挟みがある。

果たして結婚は、本当に最も信頼できる安全網なのだろうか。『日本統計年鑑』によると、2023年の日本における離婚件数は18万5895件であり、前年比で0.03‰の増加が見られた。これらのうち半数以上の夫婦が結婚から3年以内に離婚しており、主な理由として「性格の不一致」が挙げられている。また、法律上は婚姻関係を維持していても、すでに情緒的なつながりが失われているケースも少なくない。中には、子どものためや世間体を考えて、家庭の形を保ちつつも、互いに別のパートナーとの関係を続ける夫婦も存在する。

よくある言い訳として、「子どもをひとり親家庭で育てたくないから」という声がある。しかし、それは本当に子どもの幸福につながるのだろうか。感情的に抑圧された家庭や無関心な家庭で育つことは、ひとり親家庭で育つこと以上に子どもに悪影響を及ぼす可能性がある。一方で、子どもがいない夫婦にとって、結婚は心理的な「保険」として機能し、恋愛関係が破綻した際の最低限の同居保証のような意味合いを持つこともある。

現代において、女性がもはや経済的に男性に依存しなくなった今、「情緒的および実存的な安心」を得る方法もまた、新たな形を取り得るのではないだろうか。フェミニスト社会学者・上野千鶴子氏は、「家族とは何か」という問いに対して、力強い再定義を提示している。彼女は、心理学者エリク・エリクソンのアイデンティティ理論をもとに、「ファミリー・アイデンティティ」という概念を提唱する。すなわち、家族とは血縁や婚姻契約、同居といった外的な要件によって規定されるのではなく、相互の承認と共有された関与によって成立する関係である。この視点において、「家族」とは法律的あるいは生物学的なつながりではなく、互いを「家族」として認識する人間関係そのものである。

このような新しい家族の形は、実際の社会の中にもすでに存在している。たとえば、未婚のまま養子を迎え、「自発的シングルマザー」として生きる女性もいれば、価値観の合う友人たちと共に支え合いながら暮らす「共住ネットワーク」を形成する者もいる。また、信念や価値観、感情的な結びつきを基盤とした「インテンショナル・コミュニティ(意図的共同体)」に参加する人々もいる。こうした人々は、日々の家事や経済的負担を分かち合い、感情的な支援を提供し合い、重要な人生の決断にも互いに寄り添う。こうした関係から得られる心理的な安心感は、伝統的な家族構造がもたらすそれと同等か、それ以上に安定している場合もあるのである。

independent

結論:制度の硬直性から意識的変容へ——家族の未来に向けた新たな道を拓く

現代の東アジア社会において、結婚や出産を選ばず、シングルで生きることを選択する女性が増えている。こうした選択は単なる個人的嗜好ではなく、むしろ社会の構造的矛盾に対する意識的な応答であることが多い。女性たちはもはや、結婚のみを安心の源として求めるのではなく、従来の枠組みから離れ、新たな生の形、感情的支援、自らの存在価値の確認を追求しようとしている。

しかし、こうした選択や実践が社会的に正当性と保護を得るためには、制度的な改革と文化的意識の変容の両方が不可欠である。現在の制度――たとえば医療上の意思決定、財産の相続、社会福祉の受給資格など――はいずれも結婚関係や血縁関係を前提とした設計となっており、「アイデンティティに基づく家族」、すなわち未婚女性、選択的シングルマザー、非血縁の同居者などは、構造的に支援の対象から排除されがちである。

これからの社会に向けて、以下のような政策的方向性が考えられる:

  • 医療や法律における「非血縁ケア提供者」の認定:親族でなくとも、心理的・実質的なパートナーを医療代理人や緊急連絡先として指定できる制度の整備。
  • 社会福祉へのアクセス拡大:婚姻外の子どもや同居パートナーなど非伝統的な家族構成員を住宅支援、育児手当、介護支援などの制度対象に含める。
  • 多様な住まい方の支援:共住型住宅や相互扶助ネットワーク、また自発的な家族関係に法的地位を与える「生活契約」の制度化を促進。
  • 教育とメディアによる意識変容の促進:非伝統的家族のメディア表象を増やし、学校教育において家族の多様性を扱うことで、未婚者やシングルに対するスティグマを軽減する。

さらに制度的な変革を越えて、私たちの「家族」という概念そのものを問い直すことが求められる。上野千鶴子氏が述べるように、家族とは単なる法律や血縁によって構成されるものではなく、関係性と共有されたアイデンティティに基づく心理的コミュニティとして捉えるべきである。

同時に忘れてはならないのは、家族内部におけるジェンダー役割の再検討である。女性にのみ過度な責任や制約を課す家父長的な前提を乗り越えない限り、いかに家族の形を多様化しても、結果として従来の不平等を再生産する可能性がある。オルタナティブな家族の可能性は、内面化された性別規範を解体しない限り、真の解放には至らないのである。

あらゆる関係性に対して、十分な空間と尊厳、そして承認が与えられるとき、愛やつながりは制度や固定された役割から解き放たれ、人間の多様な現実の中で自由に花開くことができるだろう。

References:
1. Association D. I. C. (2023.). 第 16 回出生動向基本調査(結婚と出産に関する
全国調査). 国立社会保障・人口問題研究所. Retrieved July 7, 2025, from
https://www.ipss.go.jp/ps-doukou/j/doukou16/doukou16_gaiyo.asp
2. Steinhoff, J. G. (2008). “Invention of the ‘Modern Family’: The Meiji Civil Code
and the Japanese ie System.” In Families in Postwar Japan (pp. 45–76). University
of California Press.
3. Iida, A. (2023). How Do Traditional Gender Roles Influence Women’s Lives in
Taiwan? An Investigation of Highly Educated Women’s Willingness to Create
Families. East Asia, 40(1), 81–100. https://doi.org/10.1007/s12140-022-09392-3
4. Kan, M.-Y., Zhou, M., Kolpashnikova, K., Hertog, E., Yoda, S., & Jun, J. (2022).
Revisiting the Gender Revolution: Time on Paid Work, Domestic Work, and Total
Work in East Asian and Western Societies 1985–2016. Gender & Society, 36(3),
368–396. https://doi.org/10.1177/08912432221079664
5. Lim, S., & Raymo, J. M. (2016). Marriage and Women’s Health in Japan. Journal
of Marriage and the Family, 78(3), 780–796. https://doi.org/10.1111/jomf.12298
6. Nakajima, K., Liu, R., Shudo, K., & Masuda, N. (2023). Quantifying gender
imbalance in East Asian academia: Research career and citation practice. Journal of
Informetrics, 17(4), 101460. https://doi.org/10.1016/j.joi.2023.101460
7. Raymo, J. M., Park, H., Xie, Y., & Yeung, W. J. (2015). Marriage and Family in
East Asia: Continuity and Change. Annual Review of Sociology, 41, 471–492.
https://doi.org/10.1146/annurev-soc-073014-112428
8. Uchikoshi, F., Raymo, J. M., & Yoda, S. (2023). Family Norms and Declining
First-Marriage Rates: The Role of Sibship Position in the Japanese Marriage
Market. Demography, 60(3), 939–963. https://doi.org/10.1215/00703370-10741873
9. Yang, W.-S., & Yen, P.-C. (2011). A Comparative Study of Marital Dissolution in
East Asian Societies: Gender Attitudes and Social Expectations towards Marriage
in Taiwan, Korea and Japan. Asian Journal of Social Science, 39(6), 751–775.
10. Belarmino, M., & Roberts, M. R. (2019). Japanese Gender Role Expectations and
Attitudes: A Qualitative Analysis of Gender Inequality. Journal of International
Women’s Studies, 20(7), 272–288.
11. DePaulo, B. (2011). Singlism: What it is, why it matters, and how to stop it (1st ed).
DoubleDoor Books.
12. Gender Norms and Women’s Double Burden in East Asia. (n.d.). Retrieved July 8,
2025, from https://thediplomat.com/2023/11/gender-norms-and-womens-double
burden-in-east-asia/
13. Half the World’s New Single Person Households to Emerge in…. (2020, August
26). Euromonitor. https://www.euromonitor.com/article/half-the-worlds-new
single-person-households-to-emerge-in-asia-pacific
14. Hertog, E. (2019). Attitudes to marriage and childbearing. In The Routledge
Companion to Gender and Japanese Culture. Routledge.
15. Hoan, E., & MacDonald, G. (2025). “Sisters Are Doin’ It for Themselves”: Gender
Differences in Singles’ Well-Being. Social Psychological and Personality Science,
16(6), 610–619. https://doi.org/10.1177/19485506241287960
16. Hornyak, T. (2024, July 19). Japan asks young people why they are not marrying
amid population crisis. The Guardian.
https://www.theguardian.com/world/article/2024/jul/19/japan-asks-young-people
views-marriage-population-crisis
17. Marriages and Families in East Asia: Something Old, Something New. (n.d.).
Association for Asian Studies. Retrieved July 8, 2025, from
https://www.asianstudies.org/publications/eaa/archives/marriages-and-families-in
east-asia-something-old-something-new/
18. OECD. (2023). Reporting Gender Pay Gaps in OECD Countries: Guidance for
Pay Transparency Implementation, Monitoring and Reform. OECD.
https://doi.org/10.1787/ea13aa68-en
19. Ueno, C. (2020). Kindai kazoku no seiritsu to shūen (新版). 岩波書店.
20. Yamazaki, M. (2025, June 12). Japan’s labour crunch forces rethink on traditional
homemakers. Reuters. https://www.reuters.com/business/world-at-work/japans
labour-crunch-forces-rethink-traditional-homemakers-2025-06-12/
21. Yoshida, A. (2017). Unmarried women in Japan: The drift into singlehood.
Routledge, Taylor & Francis Group.
22. 人口動態調査 人口動態統計 確定数 離婚 上巻 10-4 離婚の種類別にみた
年次別離婚件数及び百分率 年次 2023年 | ファイル | 統計データを探す.
(2023). 政府統計の総合窓口. from https://www.e-stat.go.jp/stat
search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00450011&tstat=000001028897&cy
cle=7&year=20230&month=0&tclass1=000001053058&tclass2=000001053061&t
class3=000001053070&stat_infid=000040207213&toukei_kind=6&result_back=1
&tclass4val=0

發佈留言

發佈留言必須填寫的電子郵件地址不會公開。 必填欄位標示為 *